留伊小話1
忍たま小話・留伊(留三郎×伊作)です。
・デキてる予感……!
・色々テキトーです。
・伊作さんが食満さんにべた惚れ。
・伊作さん一人語り。
・バカップルしか思い浮かびません!
・以上の事がご理解頂けた方はお読み下さい。
*** *** ***
In my next door, when is only you.
ごりごりごりごり……。かちゃ、ごろごろ、かちゃかちゃ、ことん。
無機質な音の中に、独特の匂いが漂う。
……臭い。
でも、これが体に良いんだ。この匂いだって慣れれば平気さ。みんなの病気や怪我を治す為だもん。本当は薬のお世話にならないのが一番だけど。うんうん。一人頷いて再び薬研で生薬を粉にする。
この怪しげな儀式のような作業を一人黙々と続けるのは、忍術学園六年は組の善法寺伊作。所属する保健委員の委員長でもある。
「――さて、そろそろいいかなあ」
大分粉々になったけれど、これでは未だ粗い。もっともっと粉々にして製丸板に押し込めて整形できるようにしなくちゃ。
今度は捏ね鉢で……、ずずず、と床を鳴らして捏ね鉢を引き摺って手元に寄せる。
「えーと、匙、匙」
捏ね鉢に粉になった材料を入れて、さらに連木で捏ねる。
こりこりこり、かたん、こりこりこり……。
そう言えば、ふと思って僕は顔を上げた。
夢中になって材料作りに励んでいたので、没頭していて気が付かなかったけれど、さっきから物音がしない。いや、自分の立てる音しかしていないのでは、と気付く。
「あれれ? おかしいなあ」
もう大分夜も更けていて、この刻限にはいつも同室の彼と自分はお互いが委員長を務める委員会の仕事を持ち帰ってこの部屋で作業するのが日課になっているのだ。自分が歌う鼻歌が煩いとか、その匂い何とかなんねえのかとか、文句も言われるけれど。
でもそれを言えば同室の彼ー留三郎ーだって、とんかんとんかん、毎日毎日よくまあそんなに修繕するものがあるなあ、と思う程度には日々何かしら修理していて、用具の管理と言うよりも専ら修理委員みたいになっていて、僕の薬の匂いも酷いかもしれないけれど、留三郎の木槌の音だって結構なものなのだ。
だけど、それには僕は何も言わない。あの小気味良い音を聞いているとこっちまで楽しくなるし、何だかお互いに立てる音が丁度よく響き合ったりすると、凄く嬉しくて。それに、その音がしていると、あ、今傍にいるんだ、なんて思っちゃったりして。
「あー、僕って馬鹿だなあ」
そんな事を思ってちょっとだらしなくなった頬をぱんぱんと叩いて、留? 留さん? 留三郎さーん? と声をかけてみる。
けれど、いつもなら何だとか、呼んだかとか。日によっては、どうした伊作、なんてあの甘い声で応じてくれるのに。鋭い彼が今日に限って無反応。
「……? 失礼しまーす……」
おかしいなと、気になってお互いの作業場と化している部屋の間仕切りにしている衝立から覗けば。
じじじ、と宿題をやったり細かな修繕作業をしたりするのに大活躍の留三郎の机の上で静かに灯火が揺れて、にんたまの友の今日の授業で習った場所が開かれたまま。机の足元には何やら編みかけの縄。
本人は、と目を向ければ、衝立に背を向けるような形で、これまた僕にはさっぱり分からない壊れかけの箱と木槌で両手を埋めてこっくりこっくり船を漕いでいて。
あは、と思わず笑みが溢れた。
こんな風に居眠りをする留三郎なんて、滅多に拝めない。
毎日毎日どうしてこんなに、と思うぐらい予期せぬ不運に見舞われる僕だけど、今日はターコちゃんに落ちただけで、それだって留三郎にすぐに見付けてもらったし、その程度の不運は寧ろいつも通りで。
それなのに、こんな緩んだ顔の留三郎を見付けてしまえるなんて。若しかしたら僕は今日物凄く幸運なのでは、と思う。
だってあんなに三日も四日も寝なくても学園一忍者できる級友と同等に渡り合える実力の持ち主なのに、背中を見せて、寝ている、なんて。
それってば僕には気を許してくれている証拠だよね? ねえ、留さん? 心の中で話しかけてみる。
それにさ、ほら、何よりも衝立に凄く寄っているのが嬉しい。この場所が僕たちを隔てる唯一の場所で、僕はなるべく匂いが届かないようにと思って出入り口の付近で作業するのだけど、気持ちはいつだってこの衝立の一番近くにいた。
だって、ここが一番留三郎に――近いから。
若しかしたら留三郎も同じ気持ちで、いて、くれた……?
なんて。腑抜けた事が頭を過ぎるけど。あ、でもでも。そろそろ夜は寒くなってきたんだよね。僕の大事な留三郎に風邪なんかひかせられない。大体保健委員会委員長と同室の者が風邪だなんて、ちょっと洒落にならない。僕の名折れにもなってしまう。
用具のちびっ子たちにも申し訳ない。でも本当はそんなの関係なくて。
一番に思うのは、真面目でちょっと喧嘩っぱやくて、物凄く面倒見がよくて。それで、いつも、どんな時でも、僕を一番に気遣ってくれる優しさの塊みたいな人に、風邪なんかひいて欲しくないと、それだけで。
ただでさえ日頃から不運に巻き込んじゃってるしね。
えへ、と内心でぺろっと舌を出してみる。
「留さん、お疲れ様」
肌寒くないように、未だ忍服のままの彼に夜着を羽織らせる。
……そう言えば、留三郎は男っぽい顔立ちの割にこんな白い着物が似合うよね、なんてまた惚けたことを思う僕は、すっかりこの人に絆されている。
だから。
作りかけの薬はもういいや。一人でやっても寂しいし。明日にしよう。
そう決めて出してあった道具類をかちゃかちゃと大まかに片付けた。――今日は衝立も退かしちゃえ。
こっくりこっくりしている留三郎に気遣って、そっと僕の布団を敷く。
それから、ゆっくり留三郎を横にして、僕もその隣に潜り込む。
「あったかーい」
彼の温もりに安堵して、思わず溜め息みたいな声が出た。
ぎゅ、と無意識にだろうけれど、僕のことを見付けて抱き込んでくれた腕が嬉しくて、頬に熱が集まる。
こう言う優しさが反則的で堪らないと思う。
だけど、そこが凄く、好きで――。
「おやすみ。(大好き)留三郎。また明日」
また明日僕を見付けてね。
いつも君に一番傍に居て欲しいんだ。
いつだって僕の隣は君だけで
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