留伊小話2 New

忍たま小話
相変わらずの残念クオリティ。

・留伊(留三郎×伊作)です。
・安定のチョーテキトーです。
・出来上がってますよ!
・冬の季語に纏わるお話。
・いさっくん視点(多分)です。
※食満さんに夢見すぎ。
・以上の事がご理解頂けた方はお読み下さい。

*** *** ***



 あ~、さむーい! 本当に何この寒さは。
 六年間で大分鍛えた筈だけれど、やっぱりちっとも暑さ寒さなんて凌げないよと、寄せた眉根のその眉間の奥で思いながら。
 それでも放課後の常習となった委員会活動は楽しくて、誇らしくて。
 ふんふんと思う事とは別に鼻歌じみたものまで出てくる。
 学園の生徒はおろか、学園長を始めとする諸先生方の健康や衛生や体調管理に携わっているのだと思うと、未だ学生と言う身分ながらも、何か一つの重大な責務を負っているようで。
 だからこそ、学園一の不運の集まりだとか、あまつさえ不運委員会などと言う有り難くもない渾名までつけられていたって、誇りを持ってこの委員会の活動に、運営に携わるんだと。
 不運委員長、元い保健委員長である善法寺伊作は心に強く強く思う。
 そう。仮令それが学園中のトイレットペーパーの交換補充作業だとしても!
 何世紀もあとになって擬音として定着するだろう、シャキーン! とか、ドーン! とか言う書き文字を背負っていそうな様子で。
 両手に抱えて余る程の落とし紙を力強く抱え直した。
 勿論伊作だけではこの広い広い学園から長屋や専門の建物のある場所まで回りきれる筈もないし、放課後の保健室当番だってあるので、毎回保健委員に所属する生徒は一年生から最上級生まで万遍なく全員参加なのだけれど。
 自分以外は全員下級生と言う、何だか顔ぶれ迄もが頼りなく不運な印象のする委員会で、伊作は責任感も顕に、僕が頑張らなくちゃ! と毎回毎回張り切っている。
 けれどその張り切りは大抵毎度空回りで。
 そして大概誰か―特に言うなら長屋で同室の食満留三郎辺り―を巻き込んでしまうのが定番の落ちだった。
 それでもその度に決まり文句のように、すまない、留三郎、と垂れ気味の眉を更に垂らせば、困った顔もいつしかにこりと笑って返されて。
 いいんだ、伊作。気にするな。同室のよしみだろう、と。
 あの面倒見の良い性格を、特に下級生に対して最大限に活用される最早父性と言っても過言ではない程の包容力を発揮してくれて。

 ――ああ。やっぱり留さんってば男前だよなあ。
 いつもいつも僕が困っていれば助けてくれて。薬を煎じて得体の知れない匂いを部屋中に充満させても、眉を潜めて文句は言うけど、結局最後にはしょうがないなと、協力してくれるし。
 薬草摘みのアルバイトだって手伝ってくれるし。
 それに責任感も強いし。
 下級生にだって悉く優しいし。
 運動神経だってい組の文次郎やろ組の小平太に負けていないし。腕っ節の強さでも負けていないと思う。
 頭の回転だって早いよね。僕なんかよりよっぽど成績いいのに、何では組なんだろう。――は組にいてくれなきゃ嫌なんだけど……っ!
 それにああ見えて用具委員長で、物凄く手先が器用でさ。ちょっと頼んだ備品なんかも、凄く完成度が高くて。
 面倒見が良くて、優しくて、運動神経抜群で、それで大工仕事までできちゃうなんてさ。
 狡いよねえ。凄いよねえ。
 しかもさ、顔だって、……ちょっと吊り気味の切れ長の目にすっと通った鼻筋で、……結構、かなり、男前だし……。
 その整った顔立ちにあの黒髪の茶筅がまた似合っててさ。男振りが上がるって言うか……。
 声だって、割りとすぐかっとなる性格のせいで怒鳴っている印象が強いけど、全然、そんな事なくて。部屋で伊作って呼んでくれる時なんか、凄く、優しい声だし。あの、少し高めのふわっとした声って癒やされるよねえ……。
 僕より少し大きい体で、あの顔で、あの声で、あの器用な指で。
「伊作、こっちへ来い」
 なんて呼ばれて髪なんか梳かれたら――!

 うひゃああああああ! もう~っ!
 内心で気恥ずかしさに奇声を上げて、諸手に抱える落とし紙に顔を埋めて嫌々とするようにぶんぶん上半身ごと横に振ってみたりして。
 寒さなど露程も感じていない風にして、伊作はだらしない自分の脳内に酔ってしまう。
 ……もうっ! 留三郎の馬鹿!
 えへっとてれてれと笑いながらうきうきと歩く伊作は、微かに頬を染めて、ふわふわと巻き癖のある髪を揺らして随分上機嫌になってしまっていた。
 そう。ここは伊作にとっての地雷原だなどとは微塵も思わずに。

 ぽやぽやと花でも撒き散らしていそうな雰囲気で上機嫌で歩く伊作は気付かない。
 ここはそろそろ穴掘り小僧こと四年生の綾部喜八郎が用もなく日々こつこつせっせと愛用の踏鋤で蛸壺と呼ばれる落とし穴を作っている裏庭に差し掛かっていると言う事に。
 日々誰彼となく犠牲にはなるし、気付いた者がきっと埋めたりしているのだろうけれど、その甲斐も空しく翌日には綺麗さっぱり地面は穿り返され、穴だらけになってしまう。
 尤もあそこまで穴を掘り続けられる気概は大したものだと思う。天才トラパーと異名を取るのもさもありなんと頷けるのではあるけれど。
 けれどしかし。その罠自体は数も膨大なので、はっきり言ってそれなりに研鑽を積んできた忍の端くれともあれば、そうそう万度引っかかる事はない筈なのだけれど。
 当然掘る側の喜八郎とて、まさかそんなに面白いように毎回引っかかる人ばかりではないと、特に自分が所属する作法委員会の委員長などは華麗に全て避けてふふんと鼻を鳴らす程で、後々あれでは罠にならないからもっと複雑にしろとか有り難い忠告まで頂くくらいなのだから、と思って掘っている部分もあるのだ。
 けれど、作成者の思惑通りにいかないのが、不運委員長が不運委員長たる所以で。
 喜八郎は思う。
 僕はこの人のために穴を掘っている訳じゃないのに、と。
 それ程の高確率で毎回毎回それこそ出来損ないのターコちゃんにすら落ちてしまう程で。
 逆によく飽きないなあ、と喜八郎始め後になって保健室で伊作を手当する同じ委員会の後輩たちにまで思われている始末なのだから。

 そんな伊作が気付きもせず、意図してもいないと言った感じで脳内で同室の彼の惚気を繰り広げていれば、当然気を張っていても罠にかかる性分なのだから、結果は火を見ずとも明らかで。
 ほにゃほにゃと笑み崩れて機嫌よく歩いていれば、あと少しで図書室だ、などと思い至り、脳内のお花畑のせいで何だか無性に早く長屋に帰りたいのも手伝って。
「よし。図書室の厠の見回り早く済まそう!」
 無駄に気合など入れてしまって、足取りも軽く勢い付いてくる。
 伊作にしてみればどうって事ない地面。
 けれどそこには生首フィギュアに飽きた穴掘り小僧が繰り広げた蛸壺地獄が広がっていて――。

 ずるっと足元の滑る感覚に一瞬何が起きたのか把握すらできない。
 え? え? 何?
 桃色の脳内では全く現状を処理しきれないままに、伊作はわあ! と叫んで見事に蛸壺に落ちたのだった。
「いったたたた……」
 落ちて反射的に両手を空にしたお陰で、受け身は取れたものの何せ狭い蛸壺の中。見事に強か尻もちをついて。
「は~っ。またターコちゃんに落ちちゃったのかあ」
 情けない声が漏れる。
 綾部はどうしてこんなに罠を仕掛けるのが上手いんだろうと、途方に暮れて現実逃避を試みるけれど。
 どう足掻いても一人では登れないし、ほとほと困り果てる。
 よっこらせと年寄りのような掛け声で体勢を整えて、打ち付けた部分を確認する。
「うん。今日は捻挫も打ち身もなさそうかな」
 妙なところで安堵感を得てうんうんと一人頷く。
 余りにも罠に嵌る事に慣れてしまったのか、落ちた事には然程の感慨も浮かばない。
 只々単純に情けなくも保健委員長が保健室に運ばれて可愛い後輩たちに迷惑を、心配を、かけてしまう事ばかりが気になる。
 多少の擦り傷はあれど、この程度ならばこっそり自室で常備―何せ伊作はこの通りで、留三郎に至っては文次郎と顔を合わせれば取っ組み合ったりするので―している傷薬で大丈夫かなと簡単な治療の算段を得て。
 そうして、もう一度はあっと盛大な溜め息を吐いた。
 さすがに寒いなあ。
 こんな穴の中じゃおしりが冷たいよ。
 一晩中出られなかったらどうしよう。
 ちょっと怖くなってよいしょと滑る土に手をかけて足をかけてみたけれど。
 数歩よじ登るとずるずると落ちる始末で。
 やっぱりね~。滑るんだよね~。
 それにただの縦穴じゃなくて、多分内側に向かって反っているのだ。
 ――罠にかかった者が簡単に出られぬように。
 忍具の一つでも持ち歩けばいいのだろうけれど、学園内でさすがに暗器は所持しない。
 大抵の上級生はそっと所持していたりするけれど、伊作は性格上誰も傷付けたくないし、また学園は安全な場所だと信じていたいから。
 誰かが修行やちょっとした諍いや、思わぬ事故で怪我をすれば、それを看護して癒やすのが自分たちの役割なのだから、と。
 そう思えばこの学園内で守るべき人々だらけのこの場所で、武器など携帯できる訳もないし、したいとも思わない。
 ただ、今回のような事があれば、困ったなあ、と苦笑いするだけだ。
 自分ってどうしてこうどじなんだろう、と。
 情けなくなって少し悄気返って。
 それから食堂のおばちゃんがいる時間までに帰れるかなあ、とか。
 晩ご飯食いっぱぐれて風呂も薪が落とされたらどうしようとか。そんな事を思うだけだった。
 きっと委員会の時間が終わっても帰らなければ、保健委員のみんなが心配してくれる。それからきっといつものように小さいあの子たちが頑張って助けてくれるんだ、とも。
 それに、もしかしたら――。
 不安と寒さと申し訳無さで多少挫けた心がほんのりと温まる。
 彼のことを思えばいつだってどんな時だって心強くいられる気がして。
 勘の良い人だからと、慣れては駄目だと、いけないと思うのに、それでも毎回奇跡のように自分を見つけ出して助け出してくれる彼が、今回も、と。
 甘えた考えが胸を過る。
 甘えて、縋ってしまいたくなるあの節くれ立った器用な指先。自分よりも大きくて力強くて、大工仕事のせいで多少荒れている、けれど優しくて温かい手が。
「伊作」
 と、心配を滲ませる声音で。
 あの丸く切り取られた淵から、吊り気味の眉を萎れさせて、覗き込んでくれそうで。
 しょんぼりとする気持ちよりも、何だかそんな風に考え始めると、待ち人を待つようで。
 俄に伊作の心が軽くなる。
「留さん……」
 吐息にも似た声音で呟いて。
 ――早く会いたいな。
 継いで出た言葉に我ながら頬染まるような面映ゆさを感じる。
 そんな自分を伊作は誤魔化すようにはあっと大きく息を吐いた。白く曇るそれに、底冷えを感じて一瞬ぶるりと両肩が震える。
 ヘムヘムの鐘が鳴るまであとどれくらいだろう。さすがに夕暮れは早くて、丸く切り取られた景色には、薄墨色が広がってきていた。
 ちかちかと輝き始めた一つ星に、ぎゅうと瞑目する。
「留さん、……とめ、留三郎……」
 手を組むようにして、まるで祈るような仕草で恋しい人の名前を呟く。
 そのまま暫く動かずにいれば、不意に、さく、と土を踏むような音がした気がして。
 伊作は瞑っていた目を開いた。

「呼んだか」
 笑い含みのその声に、怒涛のように安心感が押し寄せる――。

 はっとして目を見開いた伊作の両目に、星の瞬くような光が一つ。
 きゅっと唇を噛み締めてつんとする鼻の奥が痛くて。
「留さん……」
 こんな事で泣くなと更に笑われた。
 泣いてないしと強がっても、伊作の目は大きいから、濡れてくると光が増してすぐ分かる、と笑われる。
 あの大好きな優しい声で。
 どうしてここが分かったのと問えば、保健委員のちびどもがやってきて、お前が帰ってこないと聞いてな、と至極尤もな返事があって。
「それで、もう暗いしあいつらは一緒に来たがったけど、長屋に帰したんだ」
 お陰で今日修繕完了予定のあひるさんが明日まで延期だと留三郎が溜め息一つ。
「ごめん」
 保健の子たちにも、用具の子たちにも、それに何より留三郎に。本当に申し訳なくて、伊作はがっくりと項垂れた。
「馬鹿」
 ……お前以上に大切な用事なんてあるか。
 もっと大きな溜め息のあとに紡がれたその言葉に――。
「あ、りが、と」
 そんなつもりはないのに、喉の奥が熱くて。言葉が詰まって。
「保健のちびどもにお前の今日の見回り場所聞いてな。凡その見当はついて、さっさと来てみれば盛大に証拠が残ってたし。まあ、裏山辺りで迷子になられるよりは、楽だ」
 上から伸びてきたあの大きくて温かい手が、伊作の下瞼を一つ撫ぜる。
「うちの作兵衛の捜索範囲に比べれば、お前は可愛いもんだよ」
 思い当たる節があるのか、些か遠い目をした留三郎の言葉が温かくて、優しくて。
 伊作の萎れる心にぽつぽつと火を灯してくれる。
 反射的に放り出した保健委員の代名詞とも言えるトイレットペーパーがこんな風に役立つなんて。
 あんまりにも優しい留三郎の手つきに思わず伊作はふふ、と笑った。
「留さんは、かっこいいねえ」
 擽ったくて、でももっと触って欲しいような気持ちでそう言えば。
「お前の前でだけな」
 随分早口にそう告げると、ほら、と伊作の頬を撫でていた手が開かれて。
「僕の前でだけじゃなきゃ駄目だよ」
 ぎゅっと握ったその手が逞しくて力強くて。
 嬉しくなって伊作は引き上げられたと同時に留三郎の首根っこにしがみついた。
 泥に塗れた伊作の装束を、ぱんぱんと叩いて身綺麗にした留三郎は、何言ってやがると照れ隠しの毒を吐いて。
 けれど伊作の泥を落として空いた留三郎の手は、行き先を違う事なく真っ直ぐに己にしがみつく伊作の背中に回された。
「頭にも土がついてるじゃねえか」
 伊作よりも背の高い留三郎が見つけて笑えば、嬉しそうな声音で本当に? と伊作の声が被さる。
 じゃあこのまま風呂が先か。
 頃合いよく、かんと一つ鳴った鐘に、留三郎が顔を上げる。
 風呂が先かと言った留三郎を見上げれば、いつも以上に愛しく思えて。
 未だ、今頃は下級生が陣取ってるよと伊作は嘯く。
「そうか」
 下級生と聞けば何よりも優先してしまう癖のある留三郎に、多少妬けもするけれど。
 でも、そんな風に優しいところに伊作は多分に心惹かれているので。
「だから、未だ、二人でいようよ」
 ね、留さん。
 強請る言葉を付け足して、伊作はすりっと留三郎の一日を過ごした首筋に顔を埋める。すんと鼻を鳴らせば、やっと馴染んだ匂いに心が落ち着くようで。甘えたくて。
 どこも痛くないのか、とそれでも気遣ってくれる留三郎に尚更愛しさが込み上げる。
 うん、平気と答えた声に、そうかと返す声が優しくて、穏やかで。
 益々甘えたくて縋りたくて。
「とめさぶろ」
 先程のように安堵感ではなく、自分の目が熱を持ってくるのが分かる。
 潤んで、多分きっとみっともない程、彼を、留三郎を、……欲しくて。
 独占したくて、色が滲むのが分かる。
「耳まで赤いぞ」
 揶揄うように留三郎が言うけれど、何の彼だって負けず劣らず首筋まで真っ赤だ。
 とめさんこそ、と伊作が綻ぶように笑えば。
「そんな顔するな」
 いさく、と柔らかく呼ばれて背筋が震える。
 その声に安心しきって留三郎に身を寄せれば、ぎゅっと力任せに抱き竦められて、伊作はこの上ない幸せを噛み締める。
「先ずは、これを片付けなきゃな」
 顎をしゃくった留三郎の視線を追えば、自分を見つけ出す目印になった物が、整然と並んでいた。
 きっと留三郎が拾い集めてくれたのだろうけれど。
 それには大変感謝するけれど。
 だけど、とぎゅうぎゅうと抱き締めてくる癖に、その言葉のつれなさに、伊作の唇が尖る。
 ふっと笑った気配がして、意地悪留三郎とか何とか心の中でぶつくさやっていた伊作が無意識に目を閉じる。
 ちゅ、と額に音がしたかと思うと、あとは声にならない。問い掛ける暇もなく両方の瞼に、鼻の頭に、両頬に。
 それから、驚いてぽかんと開いてしまった唇に。
 鳥の囀るような音がこれでもかと降ってきて。
 とめ、とめさん、とめさぶろう、と伊作は心の中でひっきりなしに繰り返した。
 嬉しい、温かい、幸せ、――愛しい。
 全ての感情が丸くて輝いていて、とても幸せな音の言葉ばかりが模られる。
 最後に少し強くちゅ、と吸い上げられて離された唇に、伊作は心の底から思った事を零した。
「留さんといると、僕、骨抜きになっちゃうよ」
 幸せすぎて、と留三郎の胸に額を擦りつけて吐き出せば、俺がいつでも支えてやるぞと、留三郎の声が降ってきて。
「本当に、留さんはかっこいいよねえ」
 あの丸く切り取られた頭上の風景に、今は数が増えて輝きの増した中でどこに行ったか不明の一番星に願ったように、思ったように。
 上がった体温のせいで白さの増した溜め息とともに、今日何度も思い、口にした事をもう一度伊作は呟いた。
「穴の中で、本当は、一番最初に留さんのこと考えてたよ。凄く、会いたくて」
 そうか、と頷いた留三郎が伊作の少し土っぽくなった髪を梳く。
「俺も、お前と会いたかったよ」
 あの丸く暗く切り取られた景色の中で、蹲るお前が本当は嫌いじゃないんだ、と。
 迷惑だなんて思わないでいいんだと、励ますように伊作の巻き毛の一房に口付けて。

 日は既にとっぷりと暮れてきている。
 それでも離れ難くて。
 二人はもう一度たっぷり一呼吸分口付けを交わすと、思い切るように互いに絡ませた腕を解いた。
 そして今度こそ、とその両腕には半分に分けた伊作へ続く道標の白い巻紙を抱えて。
「蛸壺の中だろうが山の中だろうが崖っぷちだろうが、いつでも待ってろ」
 ひょこ、と眉を吊り上げて笑う顔が余りにもかっこよくて、男前な笑顔で。
 そんな留三郎の膝裏に、伊作のちっとも効かない蹴りが入ったのだった。



息白し君待つ景色は丸い空

どっとはらい

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