くく竹小話
忍たま小話相変わらず残念感半端ないです。
・くく竹(久々知×竹谷)です。
・設定とかチョーテキトーです。
・何となく出来上がってる系。
・( ゚∀゚)o彡°<八不破!八不破!
・冬の季語に纏わるお話。
・くく竹。(大事なことなので二回ry
・以上の事がご理解頂けた方はお読み下さい。
*** *** ***
随分冷え込むようになったなあ。
今も手が悴むし、などと思いながら、五年長屋のい組の部屋で、ごそごそと何やら行李や長持を引っくり返しているのは、久々知兵助だった。
そろそろ冬も本番で、いつ雪が降ってもおかしくないよな、と思いながら、手指の冷たさにはあっと一つ息を吐きかけた。
虫の食った跡のある衣類はあとで継がなければとか、小さくなってしまった小袖はきり丸のアルバイトの古着売りにでも回そうかとか、色々考えながら冬支度に勤しむ。
毎年のこととは言え、衣類替えは面倒臭くて嫌になるけれど、それでも何かと自分の事は自分でしなければならない環境にあっては、うだうだと文句を言っている場合でもない。
晴れてはいるけれど、風は冷たくて。部屋の障子を開け放って整理をしている兵助は、うー、寒っともう一度手に息を吐きかけた。
少しでも天気の良い日に風を通して虫干しもしなければと思って、よしやるぞ! と気合を入れて長持に手をかけた。
ごとっと重い音をさせて蓋を開ける。中には冬物がぎゅっと詰まっていて、兵助はうーんと顔を顰めた。
こりゃあ捜し物が大変かなあ、と。
それでも、こう朝晩冷え込む上に、床張りの長屋や学園を生活の主軸にしている以上、このまま素足で過ごすのも辛くて。
――そりゃあ任務や実習の時は綿足袋だけどさ。
でも、あれはあくまでも忍び装束の一部だし。
そんな事を思いながら兵助は上体を大分突っ込んで長持の中を漁っていた。
ぽいぽいと中身を放り出しては、これは繕わなきゃ、あっちはきり丸にリサイクルしてもらおう、これはさすがにもう芥かなあ、とか。
それとも解き直して手拭いか褌にでもしようか。
色々思いながら目当ての物を探し出す。
ああでも、そう言えば繕い物は雷蔵が上手だったっけなあ、と思い浮かべて、あとでランチ奢りでやってもらおうかな、などとも考える。
「お。あったあった」
一箇所にごろごろと固まる黒いものを見つけて、兵助はにこりと笑み崩れた。
これこれ。
やっぱり冬場はこれがなきゃね。
幾つか発見してぱんぱんと叩いてみれば。
「うん。大丈夫だ。去年の暮に誂えたけど未だ履けそうだね」
満足気にそれを見遣る。
――出てきたのは黒い足袋。
さすがに素足で過ごすのが辛い季節には必需品だ。
右、左、と数足ずつ並べて見れば、そのうちの二足程に穴が。あーあ。やられちゃってる、と些か悄気げたものの、まあいっか、そんなに大きな穴じゃないし。さっき捨てようと思った古着から端切れを充てて継げばいいかと思う。
僅かに虫食いのある足袋を抱えて、兵助は廊下に出た。
先ずは虫干ししてから、それからこの衣類をしまい直して、それから、と色々頭に浮かぶ計画を順序立てて考え考えたたみ直す。
今度は夏物を行李に、長持に、と分けてしまっていく。
それから無事な衣類と、繕う衣類と、捨てる衣類と。
こんなもんかなと、一人満足気にした兵助は、そう言えばはっちゃんはどうしたかな、と不意に思い立つ。
彼はその責任者である立場上、年中泥んこ塗れで、頭に草きれだの葉っぱだのと乗せて飛んで跳ねて駆け回っている。自分も大概薄暗くて寒い場所での委員会活動だけれど、彼の委員会を思えば、まず基本的に屋外なのだから、自分よりも余程足元も何もなく冷え込むのじゃないかと思うのだ。
けどなあ、あの子見た通りだしなあ。
心の中で暗にずぼらだとはっちゃんこと、ろ組の竹谷八左ヱ門を揶揄いながら、くすっと笑う。
でも、そんな彼が凄く愛しくて堪らないのだ、と。
そう思うと何だか居ても立ってもいられないような気分になる。
やっぱり雷蔵に悪いかな、なんて思って自分でやろうと思った繕い物を頼む素振りで、はっちゃんの様子を見てきちゃおうかなあ、なんて。
隣で同じように衣替えの最中の勘右衛門をそっと伺えば、夢中で何やら長持の中に顔を突っ込んでいるし。
ちょっとだけ悪戯するような気持ちになって。
「かんちゃん、俺、雷蔵に繕い物頼んで来ようと思う」
「うんー。分かったー」
長持から顔も上げずにちょっとくぐもった声で勘右衛門に了承されて、兵助はろ組の部屋へ向かった――。
廊下を数歩進んだ辺りで、ばたばたと忙しない足音が聞こえる。
「忍の者としてこの足音はどうなの」
笑いそうになって兵助は頬を緩ませる。
本当に落ち着きがないなあ、と。
でもそんな風にどこにいても、すぐに分かるような彼だから。だから、探す手間も省ければ、何だかいつでもその存在を確かめられるようで、安堵もする。
でもやっぱりそれじゃあ忍べてないよね、とも思う。
でもあちらはい組じゃないし、別にいいのかな、なんて。
連々と詮無い事を思いながら、そろそろ姿が見えそうな勢いの足音に期待して立ち止まれば。
「へえええええええええすけええええええええ!」
……うん。
うん、ちょっと、些か、んー、割りと? 否、結構? かなり? 恥ずかしいかな。そこまでの大声って。
割合色の白い兵助の頬が寒風に吹かれている以上に赤くなる。
愛しい人から絶大な信頼度でこうして名前を呼ばれて、嬉しくないわけではないけれど。
それでもね。
兵助は自分が割りと常識人なのを理解しているので。
ききっと音がしそうな勢いで立ち止まった八左ヱ門に苦笑う。
「はっちゃんはちょっと大らかすぎるね」
ん? と何事も分かっていないような素振りで頭の上に沢山の疑問符を浮かべた八左ヱ門が首を捻る。
「何でもないよ」
くすっと笑って兵助は、で、どうしたの、と問い掛けた。
「うん。これ!」
にかっと健康そうな真っ白な歯を剥き出して笑った八左ヱ門がずいっと兵助の目の前に突き出したそれに。
「あ、」
俺も、と兵助が抱えていたものを差し出せば。
「何だあ、へーちゃんも同じことしてたのか」
あははと衒いのない笑顔が返ってきて。
「どうせ繕い物だろう」
兵助は自分が雷蔵に頼もうとしていた事を棚に上げて、八左ヱ門に言い放った。
「まあね! 雷蔵に頼もうと思ったら三郎に怒られちゃってさ!」
えへへと気恥ずかしそうに三角の眉が下がって。
「ええー。じゃあ俺も無理かあ」
ランチ奢るからって言おうと思ったんだけどなあ、と嘯けば、三郎が雷蔵にばっかりやらせるなって目くじら立ててさ、と八左ヱ門が肩を下げた。
「だからさ、ね」
何が、だからで、ね、なのか。
雷蔵の次に縫い物上手いのへーちゃんだし!
そのおでこにぴょんと跳ねた前髪と同調するような口調で八左ヱ門が言ってきて。
「まあ、うん。そりゃあはっちゃんよりは、ね」
しょうがないなあと、兵助の口元が綻ぶ。
兵助が頼み事をされると弱いと言う事を分かっているのか分かっていないのか。この天真爛漫な彼は。
物凄い勢いで駆け込んで来た八左ヱ門を思えば、ここで応えねば男が廃ると。――妙な責任感が湧き上がる。
「足袋が直ったら町へ行こう。それで、へーちゃんの高野豆腐を買いに行こう」
ね、と再び強く強請られて。
「この冬に最初の足袋を履いて、出かけよう。へーちゃんと出かけたいから、早く直そう」
何だかな、と思うけれど。
だったら自分でやればいいのにと思うのだけれど。
困った時に頼られて、尚且つその理由に絆されて。
分かったよ、と答えて兵助は微笑んだ。
そんなに全開の笑顔で綺羅綺羅しくされては堪らない。
何せ惚れた弱みだ。愛しい彼の、元気いっぱいのその足を、冬の厳しさから守る為だし。
兵助は達した結論に一人うんうんと胸中で頷いて。
「俺のついでにだぞ」
心で思う事は終ぞ声にはならなくて、強がりが口を吐くけれど。
「うん! 俺も手伝えたら手伝う」
ちゃっかり裁縫道具まで持ってきていた八左ヱ門が破顔一笑して。
「しょうがないなあ」
その笑顔に全て持って行かれた気がして、兵助は八左ヱ門から裁縫道具を柔らかく奪い取る。
俺、すぐ足袋破けちゃうんだよなあ、とぼやく八左ヱ門に、はっちゃんは行動範囲が広い上に走り回ってるからね、と笑って。
どれどれとその無残な姿を見てやろうと八左ヱ門の足袋を覗こうとすれば。
「なんか、そんな風に見られるのは恥ずかしいぞ」
跳ねた前髪がひょこっと下を向いて、八左ヱ門が俯いたのが分かる。
「だって、俺が縫うんだろ」
見なきゃ分からないよと言いながら、兵助が覗き込めば。
きゅっと口を引き結んだ八左ヱ門の頬が薄っすらと茜色に彩られていて。
「あーもう。はっちゃんは大雑把なのか繊細なのか分からないなあ」
でもね、そこが、凄く好きだよ。
付け足した言葉は聞こえたようで、大きなまん丸の目がくりっと下から見上げてきたのが、また堪らなくて。
「一足分のご褒美先払いね」
下から覗き込んだまま兵助はそう言うと、八左ヱ門の引き結んだ唇に、笑みの形の己の唇を一つ触れ合わせた。
兵助の後ろの廊下からは、あー、学級委員長委員会で活動―通称お茶会―しようかなと半目で見られていたり、八左ヱ門の後方からは、ほらね。雷蔵が気にする程落ち込んでないって言っただろうと、心配顔の雷蔵に雷蔵と同じ顔が囁いているなどとは夢にも思わず。
耳まで赤く染め上げて、おほっと変な笑い声を上げた八左ヱ門が、やっぱりへーすけは優しいな! 大好き! と飛びついたのだった。
行き合いて手に持つ足袋に笑い合い
どっとはらい
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