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※最新刊が一番上にあります。

あ。~中~

あ。~中~
あ。中
早朝の電車から、もう一歩。
あと少し、もう少し。
お互いに歩み寄る真田さんと伊達さん。
ヘタレ真田さんのヘタレ返上なるか。伊達さんの乙女はますます加速。
シリアスなようでそうでもない?ただのイチャイチャ話。
後半はエロ導入部です。
近々一冊にまとめてDL通販にする予定です。
DL通販中です。

六 外出(二)



 待ち合わせの時間に、先に現れたのは幸村だった。
 ここで間違いないはずだが、と思うが、頼みの綱の政宗の姿が見えず、若干不安にはなるものの、遠く離れた土地ではないし、それこそ自分が利用する駅からたった二駅なのだ。
 間違うはずもない、と少しの事で不安になった自分を叱咤して、幸村は駅舎に取り付けられている時計を見上げた。
 まだ十一時まであと五分もあるではないか、と。
 きっと政宗殿のことだから、時間丁度に来るはずだ、と彼を思えば自然とそうなる惚れた弱みのような思考でそう決めると、駅前に広がるバスターミナルに目をやった。
 今日は晴れてよかったな、などと、暢気な事を思いながら。
 幸村がぼんやりと、政宗と落ち合ったあとに、何をして過ごそうか、などと考えていると、たったった、と軽やかな足音が近付いてきて、はあ、と一息入れる気配がした。
 「sorry.」
 小さく聞こえて、声のした方を幸村が振り向けば、走って来たらしい政宗が少し息を乱して立っていた。
 ほんのりと白皙の頬が赤く染まり、額に張り付く濡れ羽色の長めの前髪をかきあげながらmorning.と挨拶する政宗に幸村は目を瞬かせたが、おはようございます、と毎朝の電車で交わすのと変わらない挨拶をしてみせた。
 それは、幸村にしてみれば、ああ、政宗殿のこんな様子は普段の電車だけの逢瀬では垣間見れないのだな、と感心してみたり、また、つい、と政宗がかきあげた前髪のせいで露になった、聡明そうな額や仄赤く染まった頬にどきどきしたりして、普段通りにおはようございます、と返すのが精一杯だっただけなのだが。
 「待たせちまったか」
 と、政宗がやや申し訳なさそうに幸村に尋ねれば、いえいえ、と慌てて首を横に振り、政宗殿こそそんなにお急ぎになられなくとも、と労ってみせたりして、気遣われた政宗がそれじゃあかっこよくねえ、coolじゃねえ、と気恥ずかしさを誤魔化せば、政宗殿は律儀なお方でござったな、と幸村が素で返して、結局政宗がそれに反論できずに、走ったせいで赤かった頬をさらに赤らめる、というやりとりをして、漸く二人は目的もなく歩き出した。
 本当に、コイツは、素でこういう事言うから性質が悪い、と政宗は内心で毒づくが、それでも、こんな風に手放しで自分を認めてくれて、嘘偽りなく笑顔を向けてくれる幸村に、走ったせいで上がっていた脈拍が、さらに早くなったような気がして、どこへ向かうとも決めずに歩き出した幸村の背中を追いかけた。
 当て所なく歩きながら幸村は、ああ、政宗殿のあんな風に恥じらう姿が可愛らしい、と緩む頬を抑えきれずに、笑み零したまま振り返り、政宗殿、今日は何かしたい事はござらんか、と訪ねて、なんでそんなに笑っていやがる、と政宗に睨まれる羽目になり、慌てて、いや、政宗殿にこうして会えたのが嬉しくて、と言い訳のつもりがつい本心を漏らしてしまい、さらに政宗の眉を釣り上げる結果になったが、それは政宗も同じで、性格上幸村のように朗らかに表現できないだけで、小さくshit.と零して、アンタよく、そんな事恥ずかしげもなく言えるよなァ、と結局からかうしかできなくて、小さく唇を噛んだ。
 「政宗殿はこの街に住んでおられるのか」
 何が楽しいのか、幸村はうきうきと言った様子で、然程大きくもない駅前からの目抜き通りを歩いて、右に左にと顔を巡らせては、あんな所に和菓子屋が、とか、あっちには洋菓子屋がございますぞ、とか、何やら目につくものと言えば、甘いものが所狭しと置かれて売り出されているような店にばかり反応して見せて、アンタ男のくせにそんなにsweetsが好きなのか、と政宗に白白とした目を向けられて、はっとしたような顔になると、かかか、と頬を染め、面目ござらん、と頭を掻いたが、某は小さいときから甘味が好きで、ともそもそと暴露した。
 Oh!と、一言感嘆を上げた政宗は、ははは、と軽く笑うと、見かけ通りだなァ、と幸村の肩を叩いた。
 え、それはどういう事でござろうか、と幸村は慌てたが、アンタのそのbaby faceには似合いだぜ、と返されてしまい、今度は幸村がうぐぐ、と黙ってしまった。
 ややあって、何やら逡巡したような様子の幸村が、政宗殿は甘いものが好きな男などお嫌いでござろうか、と少し斜め上の質問をしてみれば、ah?と政宗に何を言ってるんだコイツは、と言いたげな相槌を貰い、休日でいくら小さな街と言えども、目抜き通りの中にあれば、人通りはそれなりにあるもので、そんな道中で顔を赤らめながら、必死に、政宗殿は甘味好きな男はお嫌でござろうか、政宗殿が嫌がられるのなら某甘味は我慢し申す、などと言われていては、いくら地元ではないと言えども、人一倍羞恥心だとか、prideだとかがある政宗にしてみれば堪ったものではなく。
 「No.そんな事はねえよ」
 甘味だろうが何だろうが、人の好みに文句は言わないぜ、と持ち前の人に干渉しない、と言う性格を発揮して見せて、そんな事よりこんな人目のある場所でアンタおかしな事聞くな、と唇を尖らせた。
 政宗のその言葉を聞いて、まるで主人から許しを得た飼い犬のように幸村は、左様でござるか、と一人納得顔で、再びにこにことしだし、政宗殿が良いと仰るならば、今度某と甘味を食べに参りましょうぞ、と政宗にとって大事な最後の一言は思い切り無視した返事をして、あんなに必死だったのが嘘のように、笑顔で歩き始めた。
 そんな幸村を見遣って、やれやれ、と内心で溜息を吐いて、政宗はアイツはきっと悪い頭の病気にかかっているんだ、と行き場のない気持ちを何とか静めたのだった――。


 こんな風に、あの早朝の電車以外で、お互いがお互いに会えるとは、話しながら歩けるとは、と信じられない思いでいた。
 暫く二人で商店街の軒先を冷やかしながら歩いていると、なァ、と政宗から声がかかった。
 何でござろうか、と幸村が政宗を見れば、昼飯食いに行かねえか、と政宗が自分の携帯を見ながら告げた。
 幸村もジーンズの尻ポケットに突っ込んでいた携帯を取り出してみれば、待ち受け画面に表示されている時刻表示が丁度昼食時を知らせていて、おお、もうこんな時間でござったか、と呟き、左様でございますな、と政宗に笑顔を向けた。
 「政宗殿は何か食べたいものなど、ありますか」
 幸村がそう聞けば、政宗は一瞬考えるような素振りを見せたが、No.ねえな、と一言いい、逆にアンタはないのかよ、と幸村に水を向けた。
 幸村も暫く考えたが、ううん、と唸って、某も特には、と答える。
 二人して特別食べたいものもなく、かといって何も食べないでいるのも、育ち盛りの二人には厳しいもので、なんだよ、アンタ食い意地張ってそうなのになァ、と政宗に毒づかれた幸村は、好き嫌いもないので、何でも食べられますぞ、と呆けた返事をして、政宗に笑われて。
 そして、ああ、やっぱり、と思うのだ。
 この人の笑った顔のなんと可愛いことか、と。
 初めて電話で会話した晩に思った事を再び思う。
 俺は、この人の笑顔のためならば何でもしよう、と。
 こんな風に可愛らしく笑顔を見せてくれるのならば、何でもしよう、と。
 一人そんな風に思っていると、じゃあよ、と幸村から愛しげな視線を送られている事に気付きもしない政宗が声をかける。
 じゃあよ、と声をかけて幸村を見て不審げな顔になった政宗に、何笑っていやがる、と軽く頭を叩かれて、痛うござる、と口では嘯き、案外この人は口調もぶっきらぼうだが、手も早い人なのだな、と新たに知った政宗の側面に再び頬が緩む幸村だった。
 ったくよ、アンタ今日何だか笑いすぎじゃねえの、と口を尖らせた政宗に、形ばかりに申し訳ござらん、と頭を下げて、それでも幸村の頬は緩んでいて。
 なあ、政宗殿。
 俺のこの気持ちがあなたに伝わればいいのに。
 あなたに会うためだけにやってきた、あなたの住むこの街で、あなたと。
 あなたと、こうして笑いあえる事の素晴らしさを。
 俺が、どれ程喜んでいるか。
 今日も、明日も、明後日も、あなたとこうして過ごしたい。
 あなたのためだけに、俺はあるのだ。
 あなたがいるからこそ、俺はこんなに笑えるのだ。
 あなたに笑っていて欲しいから。
 はにかむあなたを見られる、その喜びが、俺に笑顔を齎せるのだ。
 政宗殿、このままずっと、あなたと笑っていたい。
 どれ程あなたに毒づかれようとも、溜息を吐かれて呆れられようとも、俺は、あなたの傍にいたいのです。
 大好きなあなたの、大好きな笑顔を、ずっと傍で見ていたい。
 大好きなあなたの笑顔を、願わくば、俺が作らせる事ができれば、いいのに。
 この連休中は、ずっと、笑って過ごしましょうぞ。
 今日も、明日も、明後日も。
 明後日どころか、この先も、ずっと――。

 はあ、と溜息一つ吐いて政宗は、それでも、コイツのこんな風に明るくて和やかな笑顔が、好きなんだよな、と思う。
 ちょっと、頭悪いんじゃないのか、と思いそうなほどに朗らかに笑うところが、実は、好きだなんて、言えやしないけど。
 けれども、こうして何気ない会話の最中に笑顔を絶やさず、話しかければ必ず政宗の目を見て話を聞いてくれるし、してくれる。
 気まぐれに、なァ、とか、アンタ、とか呼んでみても、笑顔で。
 そんな風に政宗を甘やかすとも思えるような態度でいるのは、どうしてなんだろう、と幸村といるたびに感じてしまう、幸せな勘違いを再びしてしまいそうで、政宗は些か寂しくなる。
 コイツは、きっと、友達にならば、みんなに、こんな風に優しくて朗らかなんだろうな、と。
 自分の気持ちに蓋をせねば、と思う気持ちがなるべく前に来るように、考えれば辛いような事を、あえて思ってみたりして。
 でも、今日は。
 今日だけは。
 この笑顔も、この優しさも、幸村自身も。
 全部、自分のものなのだ。
 三日間できる限り遊ぼう、と約束はしているものの、人の予定など、あってないようなものだ。
 そんな不確かなものの中で、それでも、今日だけは。
 今日だけは、幸村は政宗のものなのだ。
 彼が普段使う事もなく、用もない、この街にいるのは、偏に政宗に会うためだけに、訪れたからだ。
 たった二駅。
 されど二駅。
 その距離が、二人を隔てていたけれども。
 それでも今、こうして一緒に笑いあえるのだ。
 政宗が大好きな、心惹かれる満面の笑顔を乗せた幸村と。
 なァ、真田。
 アンタのその顔が、その笑顔が、俺の心をどれ程揺さぶるか知っているか。
 その大きくて吸い込まれそうな目に見つめられると、俺の心臓が抉られたようになるんだ。
 アンタのその笑顔で、その大きな目で、馬鹿みたいにでかい声で、笑いかけられるたびに、見つめられるたびに、名前を呼ばれるたびに、
俺の心臓は壊れたみたいにbeatを刻むんだ。
 なァ、それでも、こんなに胸は痛くて、鳩尾の辺りはぎゅっとなって、苦しくて。それでも。
 アンタとこうして笑いあえる喜びは、何にも代え難くて。
 知ってるか。
 こんなに嬉しいと思っている事。
 こうして一緒に他愛もない会話をしながら時々馬鹿みたいに笑いあって、アンタの斜め上の言葉に呆れる事すらも、俺にとっては。
 俺にとっては。
 こんなに幸せで、嬉しいと思う事なんて、今までなかったんだぜ。
 全部、全部、アンタによって知らされたんだ。
 こんな風に人を思って辛くなったり悲しくなったり嬉しくなったりする事を。
 アンタがその笑顔で俺に教えてくれたんだ。
 だから。
 せめて、今日だけでも。
 こんな不気味な見た目の俺だ。
 愛想もないし、口も態度も悪い。
 だから、贅沢は言わねえよ。
 けれど、せめて。
 今日だけは。
 アンタと一緒にいられる喜びを、俺に。
 なァ、いいだろ。
 アンタと、今日だけは、一緒にいさせてくれよ。
 今日だけは、アンタの笑顔もアンタ自身も、俺の傍に、いてくれよ。



 願わくば、アンタの隣にずっと、いられれば、いいのにな――。



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