私の恋人

即興小話
諸事情により本来の場でうまいこと行かなかったのでこっちで供養です。
制限時間に翻弄された感。


ジャンル:戦国BASARA
お題:私の恋人
制限時間:1時間



 どうしてコイツなんだろうと思う。
 なぜコイツでなければならないのだろうか、と。
 殊更に理由など挙げ連ねなくても、なぜだか、何だか、すとんと胸の中に落ちるものがあるのだ。
 ただ只管暑苦しいだけのこの男が。
 顔を合わせればやけにはきはきとした声音で手合わせしたいだとか、初心そうな顔立ちをさらに純情そうにはにかませながら愛の言葉をやはりはきと明確に口端に上らせたりしてくるのが、己の中で無性にしっくりと馴染んでしまうのだから質が悪い。
 初めて出会ってお互いに今生にただ一人と思う程の邂逅を経て、胸に燻るものを昇華させようと躍起になって刃を交え、言葉を応酬し、そして幾度か戦場で顔を突き合わせやり合い、時には共闘紛いのことまでして、そして分かったのはただお互いに首級だけが欲しいのではないのだということだった。
 再三再四面と向かい合い、お互いの得物を振るい合い、魂を賭けて血みどろになり怒号と土煙の中で駆け回ったけれど、それ以上にお互いに情けない姿を曝し、泣き言めいた言葉すら聞いて、聞かれて、気付けば惹かれ合っていた。
 思いがけないその魂に刻まれたような胸の熱の燻りの原因を知り、そんなまさかと思えども、頑なに否定するような余地もない程、あの向こう見ずがその生まれ持った性格のままに、繰り出す技の如く、そして持つ火炎のようなひたむきな熱情でもって一足飛びに己の懐深くへ自覚しろと言わんばかりに飛び込んで来て、 漸くその辺りで己は自覚しつつも否定したかった思いを諦めにも似た心境で、自分の中に落とし込んだのだ。
 そうして認めてしまえばあとは坂を転げ落ちるようにして、あの暑く熱い魂篭もる言葉と、声音と、それらを全て凌駕する勢いの瞳に溺れるようにあの腕に抱かれた。
 槍を振るうだけしか能がないなどと、相手を若干小馬鹿にしていた自分を殴りたくなるような程、その腕は熱く逞しく、そして狂おしく自分を苛んだ。愛しいと告げてどうしてもと請われて、額を床に擦り付けてまで己の全てを欲した相手を、軽蔑も侮蔑も嘲笑もすることができなかった。
 彼は持ち前の性格を十分以上に発揮して、己を――言うのも恥ずかしいけれど――愛してくる相手に、何だか凄ェと意味もなく尊敬にも似たような思いまで生まれてきてしまう始末で、そんな自分に臍を噛むような気分にすらなったけれど、それでも、彼に、あの男に請われるのは吝かではなく、寧ろ心地よさすら感じたのも事実で、自分はこんなにもコイツに心酔してしまっていたのかと、ある意味諦めとも諦観とも言えるような気持ちで、あの男に絆されていった。
 すっかり馴染んでしまったような気もするけれど、やはり居れば居たで暑苦しいし、声はデカイし、食い意地だって張っている。それに何しろしつこいのだ。あらゆる意味で。
 手合わせ願おうと勢い込んでやってきて、相手にしてやった時だって、興が乗って趣味の料理を振る舞ってやっても、そして、――房室でも。もうとにかくしつこい。そう、うっかりこの感情は、この胸に灯る炎は、魂に燻る熱は、アイツを愛しているからだと思ってしまうくらいに。
 そのしつこさで、この気持ちは恋なのではないかと、思ってしまうくらいに。もっと言えば、気付いてしまうくらいに。
 気付かされた己は恥じ入って消えてしまいたいと思うのに、気付いてしまえば、坂道を転げ落ちている最中だというのに、さらに加速するのを止められないのが、もっともっと恥ずかしい。
 そうして、この野郎、などと毒吐いてみても、自分にそんな気持ちを抱かせる当の本人はけろっとしたもので、己の名を殊更嬉しそうに呼びながら、すっかり慣れてきたのか開き直ったのか、呼んだ己の名の終いには、可愛らしくて堪らない、などと言いながらあの無駄に大きく純真そうな目を面映ゆそうに細めながら、 己の頬に唇など寄せてきたりするのだから。
 そしてあの減らず口はまだまだ発揮されるのだ。
「そんな風にすぐに頬の色が紅くなるところが堪らない」
「あまり可愛らしいことをしないで下され」
 そんなことはねェと睨みつけてみても、にっこりと微笑み返されてしまう程度で、指摘された以上に自分の頬に熱が集まるのを感じて、そして、結局、再び、今度は、悔しさにむすっと引き結んだ己の唇に、あの男のやけに機嫌の良さそうな形に象られた唇が重なって、心の中で、Shit! Goddamn! と繰り返す。
 声に出そうとすれば、知らない異国の言葉は聞きたくないとでも言うように、言葉を転がす予定だった舌を吸われてしまう。
 出るのはCoolでも何でもない、情けない音混じりの吐息だけだ。口を吸われて舌を絡められて、こんなに重く湿った吐息を零すようになったのも、偏にこの男のせいだった。
 自分をこんな風にしたのもこの男なら、この男をこんな風にしたのも自分なのだと思うと、悔しいのにそれが吹き飛ぶ程気分がいい。
 日の本一の兵を、こんな風に甘く蕩けるような男にするのも、二つ名の如く獰猛な虎にするのも己なのだと思うと酷く愉しい。
 そして、あの男の名を呼ぶとき、得も言われぬ気分にもなるのだ。
 あの虎の爪を立てられるのも、喉を撫でることができるのも、自分なのだと。
 この竜の恋人は、猛々しくも愛おしい甲斐の若虎なのだ。

 だから、今日も呼ぶ。恋人の名を。
「真田幸村」
「何でござろうか。政宗殿」
 返す言葉に彼の唇が笑むのを想像しながら――。


どっとはらい


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