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あのさ、

あのさ、
あのさ、
カカイルで色々おめでとう話。
ヤンデレヘタレなかかっさんと男前乙女なイルカ先生を目指したのですが、安定の撃沈。
泣いたり笑ったりオッさんだったりと、色々ギューッと詰め込みました。
詰め込みすぎて欲張っちゃったかもです。
結局は甘々バカップルなお話。
※当作品は成人向けになります。未成年の方は購入お控え下さい。
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以下本文抜粋

一 お



「ねぇ、イルカセンセ? 何でこんな所に連れてきたか分かる?」
「アンタ、無防備すぎるんだよ」
 そう言ってカカシは眠るイルカの下ろした焦げ茶色の髪を撫で上げた。
「もうさ、放っとくと心配で」
 カカシは愛しげにイルカの髪を梳きながら自分が眠らせたせいでピクリとも動かない滑らかに流れ落ちる焦げ茶の持ち主に向かって声をかけ続けるのだった――。
 中忍以上に支給されるベストを脱がせ、黒に近い濃紺の忍服だけをイルカに纏わせたまま、カカシは密やかに自宅へ運び込んだ。
 ふざけた名前の観葉植物が何だかこの場にはとても似つかわしくないけれど。
 それでも、普段滅多に人の訪れる事のないこの部屋が里では一番安全だと思ったのだ。
 イルカをこうして囲ってしまうのに。
 当然里外だとかも考えたけれど。
 それでも、やはり里を愛して止まない自分と、この今は眠っているイルカの気持ちを考えれば彼を担いで里外へ出る事は容易いけれども、それでも里抜けの汚名を彼に着せる事はできなかった。彼を愛したい。ただそれだけなのだから、彼の自尊心だとか地位だとか人間性だとか、そういうものに傷をつけるつもりは毛頭ないし、同じく木ノ葉を火の意思を持って慈しんでいる自分とイルカの居場所はここしかないのだ。
 だから、アカデミー帰りのイルカをここへ運んだ。
 イルカの自宅へ連れて行ってもよかったが、けれどもそれではこうして姑息とも言える手段を取った意味がない。
 里内の人が来ないような場所にでも、隠してしまおうかとも思ったが、それでも里中に監視の目を光らせる火影勅命の下、暗部たちの目のないところはないだろうと思われたし、下手に遠い場所へ連れて行ってイルカの生活の支障になってはならない。
 あくまでも自然に怪しまれず、イルカを我がものとするために。
 その点やはり自宅は安全なのだ。
 暗部時代の実績や暗部を辞めてからの上忍としての実績。火影から置かれる信頼。全ては自分の実力で勝ち取ってきたものだけれど。それでもそういうものが役立って、カカシの家は里の中でもかなり無防備だった。
 当然所有する本人によってある程度の結界なり封印なりで警護はしてあるものの、暗部の監視の対象になったりなどせず、そこにまさか里一番の業師、ビンゴブック常連の千の技を持つと言われるコピー忍者が住んでいるとは思えないほどにひっそりとあるのだ。
 そうしてカカシは自宅にイルカを運び込んだ。
 「はあ、……ね、イルカ先生、アンタは俺のモンなんでーすよね?」
 盛大に溜め息を吐いてカカシは未だ目覚めぬイルカに頬を寄せ俯くイルカの顔にかかる髪をかき上げる。
 もう大分前にカカシは人生で初めて自ら告白と言うものをした。
 カカシが微笑めば里の内外を問わず老若男女を問わずカカシに擦り寄り媚び足を開くものは大勢いたけれど。
 どれもこれもカカシにしてみれば任務の為だったり一時の火遊びだったりで、心を動かされることはなかった。
 けれど暗部を辞めて三代目の命令とは言え、随分毛色の変わった下忍三人を指導する立場になって初めてイルカに出会った。
 お互いに第一印象は良くなかったが、彼の人となりやその意志の強さ性格の素直さ、三代目から受け継がれた火の意思の煌き、余りにも純粋で涙脆いところ。その全てに心惹かれるまでに時間はかからなかった。
 それでもお互いに大人で忍の世界に身を置くものとして必要な時には衝突もしたけれど。
それでも。
 カカシがイルカを思う気持ちには何の障害にもならなかったし、カカシの初めて感じる愛しいと思う心に皸すら入らず、寧ろこの俺にここまで堂々ともの言うとは、とやや自信過剰に言えばそういう事すらも思ったのだ。
 だから。
 だから、なおさら彼が気に入った。まるで出来の悪いアカデミー生と同じように自分を扱う彼に。
 心から気遣って親身になって叱ってくれる人。まるで自分があの黄色いひよこ頭の狐の子と同じぐらいになってしまったのではないかと思えるほどに。
 そんな風に自分を扱うのは尊敬して止まないそのひよこ頭の父親たる恩師以外には後にも先にもイルカしかいないのだ。
 この人が守りたいと思う里の子供たちを、己も死の間際に分かち合えたこの赤い目の持ち主である親友と、里を、子供たちを、守るために早世した恩師から受け継いだ火の意思で。彼と共に、彼のために、守りたいと思ったのだ。
 今まで漠然と忍だから、とこなしてきた任務以上に。
 イルカは内勤中忍だと自分のことを卑下するけれど。それは立派なことなのだ。
 この里の未来を担う子供たちに道を教える役目をしているのだから。彼らのような人々がいるから、自分のような戦忍は西へ東へと駆け回れるのだから。
 だから。そんな彼だから。俺が守りたいと思うその筆頭は、アンタなんでーすよ、と。
 何度も何度も掻き口説き漸くカカシの心が、思いが、本当なのだと。本物なのだと信じてもらえて、二人は密やかに恋の花を咲かせたというのに――。

 それなのに。
 この人は無防備すぎていけない、とカカシは強く思う。
 俺のものになったのに、と。
 何でアカデミーで、待機所の受付で、あんなにその笑顔を撒き散らすの、と。
 自分の独占欲の強さに呆れ果てもするが、イルカのあまりの屈託のなさにもカカシは憤りを覚える。
 あれだけ俺以外の人の前で無防備にならないで下さいね、とお願いしたにも拘らず。
 それなのに、彼は困ったようなハの字の眉を下げて人の良さそうな黒い瞳を糸のように細め高くもない鼻にくっきりと真一文字に刻まれた傷をくしゃりと寄せて笑うのだ。
 そんな魅力的な顔を、どうして俺以外の人々の前でするの、と何度問い質したか分からない。その度にイルカはこんな顔普通ですって、カカシ先生が考えすぎです、とあの可愛らしい一文字傷を人差し指でぽりぽりと掻くのだ。健康的な肌色の頬を染めて。
 カカシは暫く瞑目してその時の様子を思い出していたが、再び額宛てで隠していない方の目を開けると、イルカの頬にマスク越しに唇を落とした。
 早く起きて下さいーよ、と祈るような気持ちで。自分で眠らせた癖に勝手な言い分を。そしてひっそりと低い声で独りごちた。
 起きたらアンタに言いたいことがあるんですよ。
 もう、アンタが愛想のいいのには慣れました。
 正直ね、こっちも常に里に居るわけじゃないし、任務が入れば何日も何ヶ月も留守にすることもある。その間にいくら忍犬をアンタにへばりつけていたって無駄だし、アンタにはアンタの生活がある。意思がある。
 実際、任務で疲れ果てて帰ってきた時に受付でアンタの笑顔を見るとホッとするのも本当の事だしね。それはきっと他の忍連中もそうだろう。だから、アンタの魅力の最たるものであるその笑顔を他の連中から取り上げるような真似はしないよ。もっともっと可愛らしくて男前な顔を俺は知ってるからね。
 だけどさ、やっぱりアンタの事は大事なの。一緒にいたいの。守りたいの。
 そう言えばアンタは俺だって忍の端くれですって鼻の穴膨らますんだけどさ。それにね、そう言う意味じゃなくても。アンタの事忍として認めてるよ。実力だってあるって知ってる。
 だからそう言う意味じゃなくてさ。アンタのその笑顔を。里の人々に子供たちに向ける笑顔を。守りたいんだよ。ねぇ、イルカセーンセ?
 それで。たまに見せてくれる極上の笑顔を、時々でいいから俺に見せて欲しいんだよね。
 こんな風に攫ってくるような真似したけど。
 ちょっと乱暴なやり方だけど。
 だからさ、聞いてよ。
 あのさ、イルカ先生……。



四 じょ



 ふう、と風呂に浸かり漸く人心地ついたイルカは、濡れた髪を乱暴に掻き上げ、湯船の縁に頬を乗せた。
 今頃あの人は何をしているんだろう。
 結局それが気になってしまう。考えないようにしようと思えば思う程、イルカの頭の中はその事でいっぱいになってしまうのだ。
 任務なら入ってなかった筈だし、と受付の特権を活かして彼のスケジュールを細かに思い出す。
 けれども、急に勅命が下っているのだとすれば、それはイルカにはもう計り知れない事だった。
 急な任務はあの人使いの荒い五代目ならば時と言わず場所と言わず選ばずにカカシに命令するだろう、とシズネ程ではないにしても三代目から引き続き秘書のような役目までしているイルカは思う。
 考えれば考える程カカシを取り巻く環境やそれを遂行できてしまうカカシの才能、能力、人望、任務達成率の高さ、そういうものに差を感じてしまう。
 そして、何だか彼が遠い雲の上の人のように感じてしまうのだ。実際忍の世界だけで言えば、カカシはイルカにとってまさに雲の上の存在であるし、一生口も利けないような存在なのだ。
 けれど、そんな忍の世界でのヒエラルキーのかなり上位にいるような人が自分を宝物のように扱ってくれる。
 たまたま出来の悪いあの黄色いひよこ頭の子供を介して知り合い、そんな凄い人が、と驚き、いけないと思いつつも時には口論さえした。
 それでも、それなのに、あの人はこんな内勤中忍風情の俺に、俺なんかに、事あるごとに声をかけて目をかけて、優しく誠実に接してくれた。
 二人でふざけて酒を飲んで肩を組んで歩いた事もあるし、たまにはナルト抜きで、なんて言われて一楽に行った事だって何度もある。
 さっきだって、そうだ。
 結局は俺の好きな事をさせてくれるし、そうやって無意識のように自分を甘やかしてくれるのだ。彼は。
 けれどそんな風にされて、憧れがどんどん身近な存在になって、イルカ先生だけでーすよ、なんて言われて初めて素顔を見せられて。
 顔に絆されたとは言わないし言いたくないけれど、でも、あんなに美丈夫だとは思わなくて。
 里一番の業師、千の技をコピーした忍者、六歳で中忍になったエリート。そんな人が顔まで良いなんて狡いじゃないか。
 ナルトが言うようにあのマスクの下がたらこ唇だったらもっと違ったのに、とイルカは思う。
 同じ忍としても、男としても憧れてしまう存在に、大切に扱われて誠実に接せられて、そしてアンタだけですよ、と特別扱いのあの素顔。
 そんな風にされてしまえば絆されてしまう。
 カカシ先生ふざけないで下さい、と少し強く言えば捨てられそうな子犬みたいに悄気返ってみせたり、恥ずかしそうにあの輝く銀の髪に所在無さげに手を突っ込んで掻き混ぜる仕草だとか。色の白い頬だってイルカが何の気なしに言った言葉でほんのり染まるのだ。そういうところが、可愛くて。
 俺には手の届かない上忍。かっこいい人。いつも飄々としていてけれどもとても優しい。仲間思いで、里の事を愛している。素晴らしい火の意思の持ち主で、心も見た目も美しい人。
 憧れて止まないその人が、自分にだけ見せる可愛い仕草。時々情けないな、と思ってしまう程に、あの人は俺に対してとても丁寧なのだ。
 そして、俺はあの人に落ちた。
 だって、落ちない方がおかしいだろ、と思う。
 そんな人にこんな風にされ続けて、特別だから、とあの日、何度目かもう分からないけれど、カカシに誘われて飲みに行った帰りに。
 送りますと言われて、いいですよ大丈夫ですと断って。それで、がっかりした顔をされておかしくて、じゃあ途中まで一緒に酔い覚ましに歩きましょうと言えば、はい、と嬉しそうに微笑んだあの人と俺は、結局何やら訳の分からない話をしながらこのアパートまで辿り着いて。それで、――それで。
 不意にふざけたような言い方で、イルカ先生だけでーすよ、と聞こえて振り向いて。
 月明かりの下で、あの人は徐に額宛てとマスクを取ったんだ。
「アンタが好き」
 それまでも冗談のように何度か言われた言葉だったけれど、あの日は特別だった。
「ね、俺本気なの。アンタだけが特別なんだよ。イルカ先生」
 酔っているとは言い難い声音で、濃紺と深紅の瞳に見つめられて。あの薄い唇で告げられたのだ。
「好きだよ」
「信じて」
 だから、俺の恋人になってよ、と。
 月明かりに縁取られて銀色の髪の毛が輝いて、濃紺と深紅の瞳に引き込まれそうだった。
 これがあの写輪眼か、と思うよりもまず綺麗だと思った。この人の目は何て綺麗なんだろう、と。澄んでいて優しくて。色の白い頬に通った鼻筋、薄い唇。
 ともすれば女性的な美しさを醸し出すその容姿は、赤い目の嵌る瞼に縦一文字に刻まれた傷が、男らしさを添えていて、かっこいいだけじゃなくて綺麗な人なのだ、とあの晩初めて気付いた。
 綺麗な男の人なんているのか、と俺は思ったんだ。顔貌だけじゃなくて、あの人の心が。魂が。――綺麗で。
 いつもなら、揶揄わないで下さい、冗談はよして下さい、と言い切れるのに。
 あの日は出来なかった。
 みんなの憧れの上忍とたまには飲みに出かけられる仲なんだと、中忍仲間から羨ましがられて、それでよかった。
 アカデミーの帰りに、受付任務の帰りに、今日はカカシ先生来ないのかな、なんて思っていた事なんて知らない振りをしていた。
 危険な任務に出ていると知れば受付所で真夜中まで待っていた。顔を見るまで安心できなくて。Sランク任務に何度も駆り出されてはへとへとのぼろぼろになりながらも笑って帰ってくるあの人に、何度も胸を撫で下ろしたなんて、自分でも気付かない事にしていた。
 任務に出るたびに、何日も入院しなければならない程体力を、チャクラを、消費しきってしまうあの人が、生きていてくれるだけで嬉しいと思うなんて、俺らしくないやと笑い飛ばしていた。
 憧れの上忍と、気軽に飲める間柄。
 それだけでよかったのに。
 あんな、あんな風に見つめられては、自分の気持ちに気付いてしまう。
 あの日俺は生まれて初めて全身に血が巡ったような錯覚に陥って、急激に血が沸騰するような熱で、眩暈さえ起こしたのだ。
 あの、その、と吃ってみっともなく動揺した俺に、あの人は優しく笑いかけて、返事はまたでいいです、と初めて、本当にあれだけ俺に好きだのなんだの言っていた割りに、初めて、優しく頭を撫でてきたんだ。
 その仕草があんまりにも優しくて、普段生徒の頭を撫でる事は多々あれど、父ちゃんと母ちゃんがいなくなってからは、そんな事一切された事がなくて。
 もう駄目だ、と思ったんだ。
 急激に自覚する自分の気持ちに、もう、抗いようがなくて。
 俺も、ととうとう言ってしまって。
 俺も、と短く一言告げただけなのに、あの人はそれまで見たこともないように破顔して見せて、もう物凄い勢いで俺は顔中に熱が集まるのを感じて……。

 カカシと思い通じ合った日の事を思い返していたイルカは、思い出の中の自分とシンクロするように自分が熱いことに気付く。
 いけね、長湯しすぎたか、と舌を出したイルカは、あの思い出の夜の暖かくて優しくてそして頬染まるような記憶を振り払うように、風呂場を後にした。
 脱衣所でバスタオルでごしごしと自分を拭いながら、俺ってこんなに恥ずかしいヤツだったっけ、と今日のカカシの様子を思い返していたのが何故かあの忘れたくても忘れられない夜の思い出にまで浸ってしまっていた自分に驚く。
 いつから俺はこんなに女々しくなったんだ、と。
 これじゃあ好きな子を思って目をハートマークにしているアカデミーの女子生徒のようだ、と自分を苦く笑うのだった――。



七 お



 ふ、と少しの湿り気すらも帯びないような口付けを解くと、カカシとイルカは生まれて初めての経験でもしたかのようにお互いにきょとんと見つめ合い、どちらからともなく笑いが込み上げて、そしてこつんと、額をぶつけ合った。
「何て顔してんですか」
 お互いにそんな風に言い合って、こんな可愛い人他にいませんよ、と今度こそちゅ、と濡れる音を響かせてカカシはイルカの唇を奪った。
 アンタの方こそ、とイルカも口に上らせてお返しのようにカカシの唇に己の唇を押し付ける。
 俺たちアホですね、と囁き合いながら何度も何度も飽きる事無くちゅ、ちゅ、と繰り返す。
 無意識に繋ぎ合った手が違和感を覚えて、それがお互いの指に嵌っている物のせいだと分かって、再び得も言われぬ幸福感に包まれる。
「大事にしますね」
 繋ぎ合い解け合いしていた手をイルカは一度自分の手で握り込むと、穏やかに凪いだ目に真摯な色を乗せてそう言った。
「俺もイルカ先生の事一生大事にしますよ」
 カカシの色違いの目も穏やかに撓んで、笑みの形になったけれど、そこにも覚悟の色が垣間見えて。
 そして再びカカシの手とイルカの手が引き合うと、言葉を紡ぐために離れていた唇も引き合う。
 解けては結び、幾度も幾度も繰り返し――。
 あなたと共にあるこの喜びも。
 あなたと過ごすこのひと時も。
 あなたがいるこの景色も。
 あなたという特別な存在も。
 いつもいつでも何度でも繰り返そう。
 時には仲違いをして解けても。
 それでも愛しい気持ちのままにいれば。
 きっと必ず結び合う。
 この手のように。この唇のように。
 解けて結んで繰り返す。
 あなたという人がいる限り。
 決してお互いの奥を探らないような可愛らしい口付けも、繰り返していれば熱は上がるもので、カカシが何となくお互いの手が解けた瞬間に、イルカの背中に手を回して撫で上げると、ん、と今までしていた触れ合いには不釣合な色付いた吐息がイルカから微かに漏れて、そんな意図などなかったカカシは逆に焦ってしまう。
「……イルカ先生、感じてるの」
 動揺のままにストレートにカカシは聞いてしまい、イルカはかあっと頬を染め上げた。
「ち、違います……! 突然だったので驚いただけです」
 弱々しく否定して見せたイルカだったが、口付けている間は閉じられていた瞼が上がればその黒はゆるりと濡れていて。
 恥ずかしさに頬を上気させて薄く照らす蛍光灯の光を反射するイルカの双眸を見れば、驚いたと言うよりも、やはり熱が上がってきていると思える有様だった。
 こんな風に素直に感じる癖に強がるイルカが可愛くて、カカシはそうですか、と言いながら驚かせてすみません、とイルカの丸い額に唇を落とした。
「じゃあ俺、風呂貰ってもいいですか」
 カカシの唇が落ちてくるのにぎゅ、と両目を瞑っていたイルカはその急な申し出に、は? と間抜けな声を上げて目を開けた。
 カカシがこの家で風呂に入る事に当然異存はないけれど、余りにもそれは今の状況で突飛ではないだろうか、と思うのだ。
 そんな風に間抜けな顔と声を晒すイルカにああ本当にこの人は、と思いながらもカカシは、ね、いいでしょ、と強請るように声をかける。
 イルカがカカシを上手く誤魔化せたのかも、と思っている事だとか、何で今こんな時に、と思っている事だとか、カカシには手に取るように分かるけれど、それでもこの可愛い人をもっと可愛がるために少しの意地悪をしてしまいたくなるのだ。
 好きな子をいじめてみたくなるなんて、まるでアカデミーの子供のようだと自分を思うが、それでも今はそうしたかった。
「勿論、風呂なんか好きに使って下さい」
 イルカがイルカらしい返事をすれば、ありがと、とカカシは微笑み、じゃあ俺風呂入ってきますね。イルカ先生は眠かったら寝てていいですよ、と言い置き、徐に今までには漂わせていなかった色気のある声で大好き、と囁くとイルカの耳をべろりと舐め上げ、ひ、とイルカが驚いている間にその唇に吸い付きちゅ、と一度触れるとそのまま己の舌を捩じ込み、イルカの口内を掻き混ぜた。
 ちゅ、ちゅ、と濡れた音を響かせイルカの健康的な白い歯を一つ一つ確かめるようになぞって、上顎の窪みに丁寧に舌を這わせ、喉の奥まで舐め上げるようにして決して広くはないその場所を余すところなく味わい吸い上げ舐め尽くし、終いにふ、ふ、とイルカの苦しくも色付く吐息が溢れ始めてカカシの忍服を握り締める手に力が篭もり、んん、と強請るように鼻を鳴らすイルカの応え始めた舌をじゅう、と派手な音を立てて吸い上げてカカシは口を離した。
 とろりとイルカの口の端からお互いの混じり合った唾液が溢れて、だらしなくも艶かしいその一筋を舌で掬い上げてやれば、とろんとした黒目がカカシを眺めている。
 それでもカカシはイルカの色付く頬を優しく撫でて、それじゃイルカ先生風呂行ってきます、と笑いかけその場を後にしたのだった。


 急に激しい口付けを施されたイルカは体はおろか頭もついていかなくて、暫くぼやっとしていたが、すっかり自分の与り知らぬところで己の体は好き勝手に反応していて、ぼんやりとしながらも頬染まり、俺って何て恥ずかしい奴なんだろう、と思うと同時にこんな事を仕掛けておいてあっさりと風呂など行ってしまうカカシに何なんだあの人は、とも思う。
 イルカの体は素直に反応を示していて我ながら何て浅ましいとも思うけれど、カカシだって悪い。こんな風に自分を煽っておいてまるで焦らすように目の前からいなくなるなんて。
 そんな風に思いながら、けれども今日起こった信じられなくも嬉しい、幸せな出来事に思いを馳せてみれば。
 夢ではないか、と思う程浮き足立つような出来事の連続で、つい疑ってしまいたくなる気持ちが湧くが、イルカの腰を揺らめかすようなキスのせいで上がった心拍数を落ち着かせるためにぎゅっと左胸を掴んだその左手には、何の飾り気もないけれど、確実に自分とカカシのチャクラを感じ取れる小さな輪が嵌っており、頬を抓ってみると言った古典的な確認方法を試さずとも、それは現実なのだと実感して、なお染まった頬に熱が集まってしまう。
 それらはイルカにしてみれば心の準備も何もない状態で急に降って湧いたような出来事ばかりで、カカシと一緒になる、と言う事に否やはないものの、何だか未だに夢見心地で落ち着かない。
 けれども、今までに味わった事のない程に幸せで温かい気持ちになる。そして、本日何度目か分からないけれど、ひっそりと溜め息を零した。
 幸せで胸がいっぱいで苦しくて。
 大きく息を吸い込んでふう、とゆっくり吐き出す。
 深呼吸に近いその仕草をイルカは二度ほど繰り返してそのままその余韻に浸るようにベッドへ倒れた。
 ぼすん、と乱雑に体の沈む音がして、そのままイルカは目を閉じた。
 そろそろ今日の日付も変わろうかと言う時間帯になっていて、周りは静寂に包まれており、目を閉じれば薄く差し込む居間の蛍光灯のぼんやりとした明るさが瞼を通して伝わる。
 その先からはさあさあ、とカカシがシャワーを使う音がして、ああ、ここに今愛しい人がいるのだ、と改めて実感が湧く。入浴と言う、忍にとっては危険で無防備になるその行為を彼はイルカの自宅でなら行うのだ。
 それが酷く嬉しくて。カカシに信用されているようで。心開いて貰っているようで。そんな風に思い描いていれば、先程齎された情熱的なキスのせいで逆上せた頭と体に熱が込み上げてきて……。
 はあ、と再び盛大に溜め息が漏れる。その空気を震わせるだけの音には少しの湿り気も含んで。
 何だか良くない事をしでかしてしまいそうで、イルカはもぞもぞと動くと掛け布団を捲り上げ中に潜り込み、ぎゅ、と体を縮こまらせた。
 こんな風に自分に火をつけるのも、あの人だけなのだと思うと、じんわりと足の爪先の辺りが痺れてくるようで、思わず足を擦り合わせる。
 初めて彼と体を合わせた時も大変緊張して、今だから言えるけれど、泣いて喚いてそれはそれは大変だったのだ。けれども、それとは全く違う緊張感が這い上がってきて、まるでもう一度初めてを経験するような、初心な生娘じゃあるまいし、と思えどもそんな気持ちになってしまう。
 ――恥ずかしい。これじゃまるで期待しているみたいじゃないか。
 イルカは左右の手を握り合い、閉じた瞼の上に持ってくるとあらぬ考えを払拭するように他の事を考えてみようとしたが、その手にはどう意識しないようにしても意識してしまうあの黒銀の指輪が嵌っていて、再びイルカをカカシに思い寄せるただの男に戻してしまう。
 好きな人にプロポーズされて、冷静でいられる訳なんてないよなあ、と自嘲してイルカは諦めたように目を開けた。
 うん。そうだ。こんな風に思い切り持ち上げて突き落とすように幸福にされた日に、冷静で居られる訳なんてないんだ。忍とは言え、俺だって一人の人間なんだ、こんな日ぐらい思う人に思われてまた思い返すのもいいよな、と。
 あなたに灯されたこの火はあなたじゃなきゃ消せないんです。
 だから、早く戻ってきて下さい、カカシ先生――。
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